【感想】漫画家残酷物語
Kindle Unlimitedにて一気読み。
Kindle Unlimitedにある本たちはどうも刺さらないものが多く惹かれることはなかったが、試し読みでまるまる1話読んだ「うすのろ」が素晴らしい傑作だったので、Kindle Unlimitedの30日間無料体験に登録して読んだ。
ちなみに永島慎二自体はまったく知らない作家だったのだが、あだち勉物語のどこかの話数で、あだち充が永島慎二のもとでアシスタントをする予定だった、のような場面があり、薄ぼんやりと調べてみたことに端を発する。(そのとき頭に浮かんでいたのはピグマリオやスケバン刑事であり、和田慎二を混同していた。もちろん水島新司とも違う)
各巻での収録話は下記。
1巻
- うすのろ
- 煙突の燃えた日に
- 雪
- 蕩児の帰宅
- 甘い生活
- 嘔吐
2巻
- 傷害保険
- 雨ン中
- 漫画家とその弟子
- あにいもうと
- 生きる
- 窓
- 遭難
3巻
- 三度目のさようなら
- 雪にとけた青春
- 心
- ラ・クンパルシータ
- びんぼうなマルタン
- 陽だまり
漫画家を主人公にした短編集で、話ごとに主人公も絵柄も違う。唯一、「ラ・クンパルシータ」だけは、これまでに各話で主人公がった人物たちが再度登場する。絵柄は、版画風だったり手塚治虫風だったり劇画風だったり。
タイトルの通りに、漫画家を主人公に据え、成功しても満たされなさ、後悔の念、すれ違い、貧乏、病気、自殺等が描かれる。しかし救いがない、というよりはとにかく無常を感じた。あとは、金を稼ぐことと自分の表現を追求することとのせめぎあいについてが複数の話でされており、作者の葛藤がそのまま感じられた。
時代は1960年代。今読むと、流石に半世紀以上前の作品ではあるので、古臭さを通り越して歴史すら感じる。月2万円で生活ができている。仕事につくこと、することを「つとめに出る」と表現していたり、飲む店を変えるとき「河岸を変える」という言い回しが出てきたり。仕事をする、というよりもより、「食べていく」に肉薄している時代だったのだろうかな、などと思いながら読んだ。娯楽といえば爆音が流れている喫茶店(ジャズ喫茶?)であったり。そこでだべって愚痴るというのは今とも変わらないものだ。
だが、漫画としては現代のものと遜色なく普通に読める。詩的な作風で、ストーリー漫画を読んでいるというよりは、挿絵のある詩集を読んでいる感覚なのだが、漫画のダイナミズムも同時に存在している。これはとてつもないことなのではないか。当時の若者が多大な影響を受けたというが、とてもよくわかる。